本記事では、広がりつつあるテレワークなどの柔軟な働き方の中で、在宅型コールセンターが持つ可能性や課題についての考察を書きました。
在宅型コールセンターの可能性
在宅型コールセンターとは、従来のコールセンターのように物件や機材に高額な初期費用をかけずに、スタッフが在宅で勤務し、自宅などでコールセンター業務を行うことを指します。
では、この在宅型コールセンターが持つ可能性やメリットにはどんなものがあるのでしょうか?
今回は以下の2つの視点から、従来のコールセンターと比べてどのようなメリットがあるかを考えてみました。
【在宅型コールセンターの運営事業者】
<メリット>
- 初期コストを削減できる。(物件や内装、機器費など)
- 必要な時に必要な人数を割り当てやすい。(繁閑対応しやすい)
- スタッフのワークライフバランス向上によって離職率を下げる効果が期待できる。
【在宅型コールセンターで働くスタッフ】
<メリット>
- 通勤時間がないので、家事や育児などを行える。
- これまでの経験、スキルを活かす機会が得られる。
- 場所に囚われず働くことができる。
運営事業者にとっては、設備投資などのコストが削減できること。 スタッフにとっては、場所に囚われず、自分のペースで働けるといったメリットがあるように思います。
また、「在宅勤務に適した仕事がないから」といった理由で在宅勤務制度を取り入れられずにいる企業にとっては、在宅スタッフに電話対応を任せるといったことも可能になります。
総務省が行った平成21年度通信利用動向調査では、テレワ-クを導入していない、具体的な導入予定もない企業にその理由を尋ねたところ、「在宅勤務に適した仕事がないから」という理由が約7割を占めています。
そういった意味でも、在宅型コールセンターがもっと普及すれば、主婦の方や地方にお住まいの方に新たな就業機会を創出できるのではないでしょうか。
在宅型コールセンターに残された課題
設備費用や人件費の削減、ワークライフバランスの向上、通勤時間の短縮、地方での就業機会の創出など在宅型コールセンターが秘めた可能性は多々あるものの、現実的には運用上の課題が多く、実現されにくいものと考えられている場合があります。
最大の課題としては、以下の3つが挙げられるのではないでしょうか。
(1)応対品質
在宅型コールセンターは、従来のコールセンターと違い、管理者がスタッフの勤務態度を確認しづらい部分があります。そのため、迅速なフォローや指導ができないことによる応対品質の低下が懸念されます。
(2)セキュリティ
在宅型コールセンターの場合、スタッフの様子が見えないという心理的な不安もあります。そのため、人的ミスによる情報漏洩が起こるのではないかと懸念されています。
(3)通信環境の整備
在宅型コールセンターにおいても、従来のコールセンターのように何かしらの電話システム(CTIなど)を活用する必要があります。しかし、従来のそうしたシステムは高額なため、いかにコストをかけないで簡単にスタッフの自宅の通信環境を整えるかということに頭を悩ます場合があります。
在宅型コールセンターの普及に向けて
上記のような課題があるため、これまで在宅型コールセンターは実現されにくいものと考えられていました。
しかし、課題には必ず何かしらの解決策があります。
応対品質に関していえば、ビデオチャットツールなどを使ってリアルタイムでコミュニケーションを取ったり、フォローすることも可能です。また、定期的に研修を行うことでパフォーマンスレベルを上げることもできるでしょう。
また、セキュリティに関しても、スタッフの採用基準を高く設定し、あらかじめセキュリティ教育をしっかりと行ったり、個人情報を扱わない業務に限定することでも解決していけるのではないでしょうか。
そして、通信環境の整備に関しても、特別な機材や設備を用意する必要がなく、ネット上から手軽に利用できる通信サービスも増えてきているため、それらを活用することであまりコストや手間をかけずに通信環境を整備することもできるでしょう。
つまり、在宅型コールセンターを運用していく上で懸念される技術的な課題はほぼクリアすることができ、従来型のコールセンターと同等のレベルを在宅でも実現可能ということです。
では、何が在宅型コールセンターの普及を阻んでいるかといえば、それは「スタッフが見えないという不安」が一番大きいと私は考えています。 何をしているかわからない、サボっているのではないかといった見えないことによる不安です。 最近になってリモートワークやテレワークといった一つのオフィスに縛られない働き方が広がりつつありますが、まだまだ顔を突き合わせて働くことへの慣れが強く、見えない不安によって、実際の運用にまで至らないのではないかと感じています。
しかし、見えているから安心と思っているとしたらそれは違うと私は考えています。 何が言いたいかというと、サボる人は会社にいようが自宅にいようがサボるということです。 重要なのは、しっかりと信頼関係を築き、離れていようがいまいがプロとして成果を出せる人材と働くということではないでしょうか。
また、成果に対して報酬を決めるといったように、評価制度を見直すことでも「見えない不安」を解消できると思います。 コールセンターなら、対応件数やアポに至った件数などを報酬に換算しやすい側面もあります。
今後、在宅型コールセンターが普及するかどうかは、上記にあげたような運用上の課題や心理的な不安をクリアできるかどうかにかかっているといえるでしょう。