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失われた日本の"おもてなし"文化

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誰からも愛されるサービスやプロダクトを提供している企業は、必ず素晴らしいサポートのストーリーがあります。ユーザー獲得に躍起になるのではなく、サポートを大事にする姿勢が求められています。

サポートに求められる理念

日本では任天堂による子供への熱心なサポートが話題になることが多くあります。サポート期間を過ぎた商品に対しても、内容によっては特例として無償で新品同様の商品を返送したり、ラベルまでそのままの状態にして戻ってきたりといったエピソードがあります。任天堂に関しては、実話から噂まで様々なストーリーが Web 上にあります。もし興味のある方は「任天堂 サポート 伝説」などで検索してみてください。

さて、それでは他の企業がなかなか真似できないことを、なぜ任天堂は実現できたのでしょうか。ここからは筆者の考察になります。

任天堂は企業が大きくなった今でも、サポート担当者にまで理念が浸透していると考えられます。任天堂の理念は、「任天堂に関わるすべての人を笑顔にする」です。任天堂のサポートだからこそ、お客様が困った時に安心させるだけでなく、笑顔にしたい。そういう思いを他のどの企業よりも持っていると言えます。一般企業のサポートが、わざわざ一人のお客様のためにゲームボーイに貼ってあったラベルを新品のゲームボーイに貼り直すような熱狂的なサポートをするでしょうか?
ここまでのサポートを任天堂だけができるのは、任天堂の理念がサポートという最も現場に近いところまで浸透されているからに他なりません。任天堂が長年培ってきた企業文化、そして人を思いやる気持ちを徹底してきた賜物です。それによってサポート担当者であっても「私は任天堂で働いている」という自負と責任を持つ事ができるのです。

驚異的なサポートを他の企業で真似しにくいのには理由があります。それは、サポート担当者は最も経営層から離れた現場層であるためです。どんなに会社の理念を社員に説いたとしても、現場のユーザーサポートまで届かないケースがほとんどなのです。そのため、理念が届いていないサポート担当者は、ユーザーの問題を解決さえすれば良いと考え、それ以上のことは決してしません。ただ壊れたゲームボーイがサポート期間中だったから治った、という安心を提供するだけで終わります。任天堂の目指すような"笑顔にさせる"ことまでしようとは思わないのです。

大企業であれば、1日の問い合わせが数百件くることもあります。その中で一人だけ特別対応なんてことはできないと、ほとんどの大企業ならば思うことであり、サポート品質の均一化を狙っていくことでしょう。しかし、残念ながらそうした企業は永遠に任天堂のような万人に愛され続ける企業になることはできません。カスタマーサポートを規則やルールで縛りすぎてしまうと、効率は上がりますが感動を与えることはできないのです。

そして、今でも多くの企業では営業やマーケティングにコストを払い、新規ユーザー獲得に躍起になっています。目先の利益ばかりを追い求め、ユーザー獲得数を KPI などで数値化し、従業員に激しく働かせることを強要するのです。このような考え方では、顧客を本当に幸せにすることはできないと私は考えています。強引にユーザーを獲得できたとして、本当にそのお客様を満足させ続けるだけのサービスを提供できるのでしょうか。信頼関係を壊すことは一瞬でできますが、信頼を築くには本当に多くの時間を必要とします。このことをそれぞれの企業がもう一度考え直すべきなのではないでしょうか。

私は、欧米化するまでの日本には任天堂のようなカスタマーサポートの精神が根付いていたと考えることがよくあります。「おもてなし」という言葉が日本語にあって英語には存在しないのがその理由です。目の前のお客様を最高に満足させて、次も利用してもらうように頑張る。その思いが強い信頼関係を築き、トヨタ任天堂などといった素晴らしい企業を生み出すのだと思います。

かつての日本の高度経済成長を支えた偉人は、全て「お客様の役に立つことを真摯にやっていこう」ということを強調してきました。その真摯さから築かれた信頼関係こそがビジネスにおいて最も大事なことだと、何十年、何百年も前から言われてきました。日本が誇る品質の良さは、その成果だとも言えます。私たちが優れた企業であり続けるために必要なことは、グローバル展開ではなく、古き良き日本の企業文化なのではないでしょうか。

終わりに

日本の GDP が~ と言って日本の成長の鈍化を指摘されることが多くなってきました。これは日本が無理に欧米化した結果、日本の素晴らしいおもてなしの文化が薄れてきてしまい、他国と差別化できなくなってしまったことが大きな原因の一つだと私は考えています。

この記事を読んでいただいた皆様には、今一度日本人の素敵な心である「おもてなし」を単なるバズワードとしてではなく、本気で考えてみていただきたいと考えています。