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SaaS のカスタマーサクセスと指標管理入門

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SaaS(Software as a Service) を提供する企業は、指標管理を徹底して行い、それに基づいた行動が求められます。本記事ではその理由と具体的な行動に関して、 SaaS やカスタマーサクセスの入門版としてご紹介します。

指標管理の重要性

SaaS の世界では、指標管理が重要とされています。月額課金モデルの料金体系を取ることが一般的な SaaS では、指標を管理することで売上予測や目標が立てられやすいことがメリットとしてよく挙げられます。具体的な指標については後ほど解説しますが、そもそもなぜこのような指標管理が重要なのでしょうか?

その背景の一つとして、チームで共通のゴールを設定することの重要性が挙げられます。一般的に機能改善によってより良いプロダクトに磨き上げられるチーム体制が整っていることは多いものの、プロダクトの分析を得意とするチームの構成がうまくできていない傾向があります。プロダクトを改善していくだけでは、望んでいる急成長を実現することができません。指標を元に戦略的に理想の顧客を定義し、既存顧客の満足度を高め、新しい顧客を呼び込むことを目指す必要があります。

チームごとに目指すべき指標は異なります。マーケティング担当では新規顧客獲得の指標が重要になりますし、サポート担当では顧客の継続率、経営層では売り上げや財務指標などが目標になりえます。また、企業の規模によっても追うべき目標は変わっていきます。これらあらゆる指標の中で現時点で最適だと思われるものを目標として定め、 "チームの共通目標"に向かって進んでいくことが求められています。

ゴールを設定すればそれに向かって団結が生まれますし、何より達成した時の喜びがあります。特に指標管理をする上で達成感を味わいながら自信をつけていくことは、急成長を求める組織においては重要と言えるでしょう。

SaaS の指標管理

指標管理の課題

現時点で、SaaS 運営者は指標管理が難しい状況に置かれています。その背景にあるのは、他の SaaS の存在です。皆さんも、自社サービス運営のために現時点で様々な SaaS を利用されていることでしょう。 例えば 顧客管理では Salesforce/ZohoCRM/HubspotCRM/kintone、決済では Stripe/PAY.JP/Paypal、行動分析では Google Analytics/Mixpanel.. その他にもあらゆる SaaS が世に出回っています。

これらのツールに溜まる情報をどこかに集約し、指標として管理できなければ、そもそもカスタマーサクセスに向けた行動をとることができません。いかに分断されたデータを統合し、指標管理しやすくできるかが、カスタマーサクセスを成功させるために重要な一つの要素となります。

それではデータ収集ができるようになった先の話として、 SaaS でよく使われる指標についてご紹介していきます。

1. MRR (Monthly Recurring Revenue)

MRR は、あらゆる SaaS において最も大切な指標とも言われています。

MRR = SUM (有料顧客の月額料金)

となります。例えば、 Starterプラン 1,000円 が 3顧客、Basicプラン 4,000円 が1顧客の場合は足し合わせて MRR 7,000円 と計算できます。ここで重要なのが定期的に入ってくる収入のみにフォーカスするという点です。定期的ではなく、一時的に上がる売り上げなどはここでは換算しません。そして MRR にも種類があるため、これらの違いを知っておくと良いでしょう。

  • New MRR (新規有料顧客による追加 MRR)
  • Expansion MRR (Upsell による追加 MRR)
  • Churned MRR (Churn による減少 MRR)

Net New MRR = New MRR + Expansion MRR - Churned MRR

単純に MRR だけを見るのではなく、その MRR の変化は、新規顧客獲得によるものか、既存顧客のアップグレードによるものかなど、分析をしていく必要があります。また、MRRが上がっていても Chun(解約)によって MRR が下がっているのであれば、その対策も当然ながら必要になってきます。

2. Customer Lifetime Value (LTV)

LTV は、セールス, マーケ, 開発, CS などあらゆる部署で参考になる指標だと言われています。具体的には以下のようなことが LTV の算出によって目安としてわかります。

  • 顧客を獲得するのにいくらまで使えるか ?
  • 最良の顧客は誰か?彼らのためにどんな機能を提供すべきか?
  • 顧客を維持するのにサポート等でいくらまで使えるか?
  • どのタイプの顧客にセールスは最も時間を割くべきか?

契約企業ごとに LTV を算出できますので、例えば業界ごとや企業規模などで平均値を出し、その中で重点的に改善したい項目について検討するのも良いかもしれません。

さて、LTV はどのように算出するのでしょうか。LTV は以下のように算出できます。

MRR = ARPA * 総顧客数

まず上記式により、 ARPA: (Average Revenue per Account) を算出します。それに加え、退会率を算出する必要があります。

退会率 = 総顧客数  /  前月退会の顧客数
LTV = ARPA * 平均ライフタイム
平均ライフタイム = 1 / 退会率 (Churn Rate)

つまり、MRR と顧客数、退会率 さえわかれば、 LTV を算出可能であるということになります。ぜひご自身の SaaS における LTV を算出してみてください。

3. Customer Acquisition Cost (CAC)

CAC は主に営業やマーケティング向けの指標で、追加顧客を得るのにどれだけコストをかけて良いかの指標となります。

CAC = 営業やマーケ費用の合計 / 新規顧客数

SaaS 運営者は、CAC (獲得コスト)を最小化しつつ、LTV (継続利用による収益) を上げることを目指す ことが求められるということになります。

この CAC と LTV の数値の割合ですが、一般的に LTV / CAC > 3(理想は 8以上) を目指すとされているようです。

4. Churn

Churn (解約) は SaaS 最大の敵とされます。そもそもなぜ顧客は Churn をするのでしょうか?以下のような原因が考えられます。

  • SaaS 利用費用に対して顧客の予算が足りなくなった
  • SaaS 利用に価値を得られなかった
  • SaaS 自体に欠陥/問題がある
  • SaaS 自体はいいが、サポートに不満/不信がある
  • 競合の SaaS に乗り換えた
  • 顧客が倒産した
  • 顧客がどこかに買収された

SaaS 運営者側でどうしようもない部分もありますが、ほとんどの Churn は運営側でコントロールできます。これには、徹底した既存顧客の理解と顧客の課題解決に集中することで実現できます。そして、そのためには 提供する SaaS を顧客にとって必要不可欠なレベルのプロダクトに習熟させられるかが大きなポイントとなります。

Churn にも種類があります。例えば以下のケースを見てみましょう。

  • 最安値プラン(1,000円/月)の顧客3社の退会
  • 最上位プラン(8,000円/月)の顧客1社の退会

この場合、合計4社が退会したことになります。しかし、MRR の損失からすると、圧倒的に最上位プランの1社の退会が大きな損失になっていることがわかります。4社の退会としてみなす Customer Churn と、11,000円の損失としてみなす MRR Churn では、MRR Churn のほうが重要であるということがおわかりいただけたかと思います。

5. Custom Metrics

最後の カスタムメトリクスが最も重要です。というのも、サービスごとに追うべき指標は異なっていくはずだからです。

例えば有名なサービスでは以下のようなカスタムメトリクスを設けているそうです。

  • Slack: ユーザー間でどれだけのメッセージ数が投稿されたか。
  • Facebook: 登録から10日以内に7人と友達と繋がれたか。
  • Dropbox: ファイルを Dropbox フォルダに一回でも入れたか
  • Twitter: 特定の数をフォローし、特定の割合でフォロバされたか

自社の SaaS で追うべき指標は何か、改めてサービス特性に応じて考えてみてはいかがでしょうか。

終わりに

SaaS 運営に必要な指標管理について、その理由と具体的な指標の例をご紹介しました。 SaaS運営者が、ユーザーのカスタマーサクセスを実現する上ではこのような指標を管理することから始める必要があります。なぜなら、カスタマーサクセスに向けた様々な取り組みが求める結果に繋がったのかどうかは、このような指標に現れてくるからです。カスタマーサクセス担当者は、分析思考を身につける必要があるといえるでしょう。

本記事は、SaaS community #1 にて発表した内容を元に記事化しました。今後も SaaS やカスタマーサクセスに関する情報を本イベントで発信する予定ですので、ご興味ある方はご参加ください。