カスタマーサクセスという言葉をご存知でしょうか。現在、アメリカや日本の一部のスタートアップを中心に新しい顧客との接し方として注目を浴びている概念です。しかし、"カスタマーサクセス"という言葉だけが一人歩きしてしまい、本当の意味を理解している方は少ないかもしれません。本記事では「本当のカスタマーサクセスとは何か」について解説します。
カスタマーサクセスが登場した背景
なぜ最近になってカスタマーサクセスという言葉が登場してきたのでしょうか。 その背景には、サブスクリプション型のビジネスモデルが普及してきたことがあります。サブスクリプション型とは、数千円の金額を毎月支払ってもらうことで、サービスを利用する権利を与えるようなビジネスを指します。Netflix などの動画の定期購読、Salesforce や kintone といったビジネス管理の定期購読など、種類は様々ですが、近年の Web サービスのほとんどはこのサブスクリプション型のビジネスに変化してきています。
従来の売り切り型のビジネスと、サブスクリプション型のビジネスでは、以下の点で大きく異なります。
- 顧客との関係。購入したら"終わり"ではなく、"始まり"
- 顧客が継続して利用することで、初めて収益が生まれる。
- 所有から共有に価値観が変わり、顧客は気軽に他の製品に移れるようになった。
- 顧客が製品に満足すれば、より上位のプランを購読する可能性も高まる。
サブスクリプション型のビジネスでは、既存顧客をいかに満足させられるかに焦点を当てる必要があります。そして、その方法として、「一人一人の顧客を満足(成功)できるように支援する」というのがカスタマーサポートです。当然カスタマーサポート自体も顧客が継続利用してくれるようにするための一つの手段ではあります。企業から能動的に働きかける “アクティブサポート” という言葉も出てきましたが、アクティブサポートはあくまでカスタマーサポートの一種です。
それではカスタマーサクセスはどのように顧客と向き合うことで、サブスクリプション型のビジネスを支えるのでしょうか。
カスタマーサクセスとは?
カスタマーサクセス部門は、「企業と顧客間の関係を管理する責任を持つ組織」のことを言います。管理という言葉がキーです。カスタマーサクセスは、顧客動向を分析する中で、顧客とのより良い関係性をサービス全体を通して提案し実行します。以下のカスタマーサポートとカスタマーサクセスの違いを表した表をご覧ください。
カスタマーサクセス | カスタマーサポート | |
---|---|---|
ファイナンス | プロフィットセンター | コストセンター |
行動 | 主体的 | 受動的 |
指標 | 成功 | 効率 |
方法 | 分析ベース | 応対に集中 |
ゴール | 予測 | 反応 |
違いを最もイメージしやすい「方法」の行をご覧ください。カスタマーサクセスは、分析ベースによって顧客を成功に導くのに対し、カスタマーサポートは応対に集中することで効率を目指します。つまり、カスタマーサクセスを実施するには、あらゆる指標を元にした“分析”が必要になるのです。
アメリカのスタートアップでは、CCO(Chief Customer Officer) という職位が登場してきています。従来、サービスの責任者として「プロダクトマネージャー」や「プロダクトオーナー」が担当していました。これが CCO を中心にサービスを指揮することで、指標をもとに顧客動向を正確に理解した立場の人が、セールス/マーケティング/開発/サポート/採用 などを指揮するような組織体系へ変わってきています。
カスタマーサクセスを理解する上で一つ例をあげます。 Aという機能に十分満足していた理想的なターゲット顧客である太郎さんと花子さんがいました。するとある日、次郎さんが「A機能が不便なのでB機能にしてほしい」という要望をしてきました。このような時、私たちは太郎さんと花子さんの満足を差し置いて、B機能を実現すべきでしょうか?
カスタマーサポートの考え方であれば、一人一人の顧客を満足させることがゴールなので、B機能を実装するという選択をしてしまうかもしれません。しかし、カスタマーサクセスの場合は全体の顧客像を指標を元に理解しているため、そのような判断を下すことはありません。なぜなら、この場合は正しい顧客である2人が既にその機能を満足して使っているからです。正しい顧客にストレスを与え、退会されてしまうことはあってはならないのです。
正しい顧客に正しい製品を売る。そのためにも、カスタマーサクセスという職種はサブスクリプション型ビジネスが台頭していくにつれ、より重要な職種となっていくことでしょう。
指標管理を始めましょう
最近になって、 “MRR” や “Churn Rate” といった言葉が出てきたのも、カスタマーサクセスという概念の登場による影響が大きいと言えます。
MRR は月次の定期購読での売り上げで、Churn Rate は退会率を表します。特に Churn はサブスクリプション型ビジネスの敵とまで言われており、いかにして退会率を下げるかに多くの企業が重点を置いています。
ただ、これらの指標はあくまで結果にしか過ぎません。サービスごとに顧客の利用動向を知る指標を設け、その指標を改善することによって最終的に MRR の向上や Churn Rate の低下を目指すことになります。サービスによって追うべき指標は異なるため、うまく指標を追えるように環境を整備する必要があるでしょう。
最近では、 MixPannel や Keen IO といった顧客の利用動向を分析できるサービスも登場してきています。これらをうまく活用すれば、すぐにでもカスタマーサクセスの土台を構築できるでしょう。必要な場合は導入を検討してみてください。
終わりに
本記事の内容は、selfree の主催するカスタマーサポート勉強会の内容を元に作成されました。
今後もカスタマーサポートとカスタマーサクセスについての情報を追ってまいります。