こんばんは、サポートタイムズ編集部の畠です。
コードキャンプ株式会社でサポートを担当している藤本さんがCS HACKというイベントを始めるということで、 2月の寒空のなか、白金台のWantedly株式会社までやってきました。 いったい何をHACKすると言うのでしょうか?
イベントではカスタマーサポートを愛してやまない人達が集まり、情報交換やディスカッションを通じて「CS」を徹底的にハックします。「CS」をハックし深く知ることで"再現性"を高め「どんなサービスであっても最高のCS対応」が出来る世界を目指します。
第1回のテーマは、“チャットbot / サポートをHACKする!”。
最近、AIやチャットbotに関するニュースがサポート界隈で話題となっています。 今回はまさに自社でチャットbotのサービスを開発している会社が集結し、開発の苦労話や効果について共有いただけるそうです。
ユーザーのニーズを引き出すチャットUI〜成功のための2つのポイント〜
最初の登壇者は、ブライトテーブルの松下さん。
2009年、東京大学大学院博士過程中退後、株式会社シンプレクス・テクノロジー(現株式会社シンプレクス)入社。同社にて、債権や外国為替証拠金取引引システムの設計、開発、運用に従事。2012年に株式会社ブライトテーブルを創業。
ブライトテーブルでは、ペコッターというアプリを提供しています。
例えば、ペコッターに「19時から恵比寿で3人で焼肉」と希望をつぶやけば、 オススメのお店をリコメンドしてくれて、予約まで出来てしまいます。
松下さんによると、現在のグルメサイトではユーザー個々の深いニーズやお店の要望に応えられていないという課題があるとのこと。 ペコッターはつぶやきに対して、その条件にぴったりのお店を提案するのに加え、少し必要条件をずらした提案もしてくれます。ユーザーの反応によってユーザーの嗜好などを蓄積することで、ユーザーごとに精度の高い提案ができるようになります。
サービスをリリースして間もない頃は、ユーザーからの問い合わせがあったら松下さんがお店を検索し、提案していたようです。 その後、メンバーが増え、回答のロジックが作られてきたところでbotで提案できるようになりました。
ユーザーと丁寧にチャットを繰り返すことで得られる「ユーザーのグルメ嗜好」と、社内で進めているAI開発の両方が、ペコッターの強みになっていくと、松下さんは考えているそうです。
『嫌われないチャット』のUX設計
続いては、チャットbotを開発しているhachidori株式会社の伴さんの発表です。
オーストラリアから帰国後早稲田大学入学。渡米後、早稲田大学卒業、投資銀行勤務 退職後、設立 問い合わせ・接客の効率化およびマーケティング活用を目的に、高機能版のチャットボット運用ツール「[hachidori plus](https://hachidori.io/plus)」を法人向けに提供している。
伴さんの会社では、チャットbotがプログラミング不要で作れるhachidoriというサービスを提供しています。
LINEやFacebookメッセンジャーなどのチャットbotをGUIで作成でき、マーケティングやお問い合わせを半自動化することができます。
ポイントは、bot自身が「botが承っております。」と名乗ること。 なぜあえて知らせるのかというと、ユーザーに「今、対応してくれているのはbot」とあらかじめ知らせることで期待値をコントロールできるからだそうです。
また、LINEやFacebookメッセンジャーなどサービスの世界観によってコミュニケーション方法が異なるのもポイント。 例えばLINEであれば、企業と友達になるといった雰囲気があるので、かしこまった口調よりは、フレンドリーな口調が合います。
チャットbotの導入効果と未来
続いては、会計サービスでおなじみのfreee株式会社の井上さん。
2004年 株式会社ライブドアマーケティングに入社。株式会社エヌ・ティ・ティ・ソルコを経て、2014年 同社に参画。オペレーターからキャリアをスタートして、CS一筋。チームづくり、業務ツール開発、採用・トレーニングプログラムの構築など、CSオペレーション全般に携わる。2017年1月リリースした、チャットBOT(β版)の開発PLを担当。趣味は、「ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えるアクション」を悩み続けること。
井上さんは、自社サービスのカスタマーサポートにチャットbotを導入する苦労とその効果を発表してくれました。
実際のサービスの画面です。 右下のチャットウィジェットを開き、「相談しませんか?」をクリックすると、
まずは検索窓が立ち上がり、ワードを入れている途中で 課題解決につながりそうな記事が表示されます。 ここの記事のセレクトは機械学習によって教育されたbotが行っています。 直接担当者に聞きたい場合には、担当者に質問をすることもできます。
また、チャットbot導入の効果を検証するために、botを1日停止してみたそうです。
1月19日(木)に停止したところ、担当者(人が対応)へのお問い合わせ数が平均より23.9%増えています。 問い合わせが増えたということはチャットbotがそれだけ仕事をしていたと言えそうですね。
実際に調べてみたところ、この23.9%という数値はチャットbotが正解もしくは関連回答を出す確率(23%)とほぼ近い数字だったようです。
チャットbotの開発途中には、何を入力しても退会案内を送ってしまう状況が生まれたりと様々な苦労がありました。ただ、今後も回答の精度を高められるように開発を続け、現在の23%の精度を80%に高めていくのを目標にしているそうです。
現在はチャットbotがQ&A形式で回答を提案していますが、将来的には質問履歴を学習したり、提案の候補をユーザーに選択してもらうことで、botとユーザーが一緒に回答を導き出せるようにしていきたいとのこと。
Wantedlyが目指すCS
最後にWantedlyの仲野さんの発表です。
Web・IT系企業でプロデューサーとしてニュースやスポーツコンテンツの調達を担当。その後、ジョブチェンジをし人材エージェントに広報として勤務。人の人生をクリエーションする仕事に面白みを感じ、これまでに無い新しい価値観で「人とシゴト」のマッチングを図るWANTEDLYのビジネスモデルに共感し、2年半前にジョイン。転職とほぼ同時に入籍した夫は5歳年下。
シゴト探しでお困りの方をサポートしているWantedlyのココロオドルシゴト相談室には、「動物と一緒に働く場所はありますか?」「強烈なリーダーのもとで働きたい!」といった多種多様なメッセージが日々寄せられているようです。
そんな質問に対し、最適な求人情報をレコメンドできるbotを開発しようということになりました。 このような自由な文章だと、普通、検索では使われない単語を使うことになるので、情報量が増えて検索の自由度が高められるというメリットがあります。
そこで、自然な文章から「誰が」、「何を」といった希望条件に合う募集をレコメンドするチャットbotを作ることになりました。仕組みとしては、昨年4月に出たfacebookAPIを使って、Facebook messenger上で機能するbotになります。 facebookメッセンジャーで 例えば「ネコと働きたい」とコメントすると、こんな求人情報を紹介してくれました。
↑のように「東京で医療系の営業がしたいです」というコメントをすると、
東京→地域
業種→医療
営業→職種
とカテゴライズして認識していて、ボットに予め業種や職種等の情報を入力しておくことで、募集とのマッチングを図ってレコメンドを行っているようです。
実はこのbotは、インターンが1人で作ったそうですよ。
仲野さんによると、Wantedlyにはエンジニアリングで仕事を効率化しようという文化が根付いているそうです。 機械が答えられる部分には機械が答えることで、人が他の集中すべき作業に集中できるようにしたいという想いがあるそうです。
トークセッション
4人の発表後、イベント参加者からの質問をテーマにしたトークセッションも行われました。 ここではいくつか印象に残った内容をご紹介します。
Q、botの正答率のPDCAはどうやって回している?
ユーザーの行動をすべてトラッキングしている。パネルを開いた、次の画面に移動したなど。 チャットbotに使う学習データの元は、bot対応からエージェント対応に遷移したのがどのくらいあるかというのを測っている。(井上/freee)
PDCAを回すきっかけは目検。Slackに、顧客とメガペコくん(botのキャラクター)とのやりとりが流れてくるのでチェックしている。 ユーザーの質問文章の中でメガペコくんが認識できている部分はグレーアウトされる。認識できていないワードに関しては、後でロジックを付け足している。(松下/ブライトテーブル)
Q、ボットを導入する時はどんな課題があったか?
LINEやfacebookでマス向けに広告を打ってしまい、ユーザーに離脱やブロックされるということが起こる。セグメンテーションをなるべく分けてあげて、ピンポイントな情報を届けてあげることで密なコミュニケーションがとれるようになる。(hachidori/伴 貴史)
学習データにどんな内容を入れれば正解を吐き出すのかが全く読めなかった。 2日間学習データ作って、学習データをbotに読み込ませたら、いきなり精度が1/4になってしまったこともあった。原因はディープラーニングだけだと良くないので、キーワードマッチも合わせてやっていたら、それがケンカしてしまったんです。(井上/freee)
現在のディープラーニングの技術だけでは日本語の文法を理解するのは難しく、まだ否定語の複雑な形などは認識できない。あと3〜4年くらいで精度も上がっていくのではないかと思う。(松下/ブライトテーブル)
主催の藤本さん
まとめ
今回、チャットbotを開発している企業が一同に集まったわけですが、まだまだチャットbotという技術は、それさえあればどんな問い合わせにも応えられるような万能なものではないようです。 本日の登壇企業は、botにサービスのどこを任せるのかをしっかりとセグメントしていました。そして、試行錯誤しながらロジックを作っていくことで実用可能なレベルまで落とし込んでいました。
AIの研究がこの先どんどん進んでいくことも考えると、チャットbotが加速度的に盛り上がっていくのは間違いないと感じました。 本日登壇した企業のプロダクトが今後どうなっていくのかは非常に楽しみですね。
以上、記念すべき第1回目のCS HACKを白金台からお届けしました。