なぜSaaSビジネスにとってカスタマーサクセスという概念やそれに基づいた活動が重要なのでしょうか?本記事では、SaaSビジネスの収益構造について触れた上で、カスタマーサクセスの重要性に関する筆者の考察を書きました。
SaaSビジネスとは?
まず、SaaSとは「Software As A Service」の略で、クラウド上のソフトウェアをサービスとして提供する形を指します。SalesforceやZendeskといったサービスもSaaSビジネスに該当します。また、これらのサービスは月額課金などの継続課金形態で提供される場合が多いのが特徴です。
SaaSビジネスの収益構造を見てみよう!
SaaSビジネスは、一般的に、月額課金などの継続課金形態で提供されているため、収益を確認する際にはMRR(Monthly Recurring Revenue)と呼ばれる単位を用いて、計測したり、管理することが多くなっています。
このMRRに計上する収益は、製品の基本使用料から得られる収益となります。 1ライセンスあたり5,000円/月の製品であれば、ここからの収益(ライセンス数×月額単価)がMRRとなります。
また、“今月のMRR”を求めるためには、前月からのMRR(積み上がっている収益)に、新規契約などで増加した分の収益(New MRR)と、既存顧客がライセンス追加などをしたことによって増加した分の収益(Expansion MRR)を足す必要があります。 そして、それらの値から今月中に既存顧客が利用プランをダウングレードしたことで失った収益(Downgrade MRR)と、解約したことで失った収益(Canceled MRR)を引くことで、“今月のMRR”を求めることができます。
今月のMRR={(前月からのMRR)+ (New MRR)+(Expansion MRR)} - {(Downgrade MRR)+(Canceled MRR)}
SaaSビジネスは、継続的な収益を得やすく、既存顧客のライセンス追加やプランアップグレードによっても収益の向上が見込めるモデルと言えるでしょう。
では、こうした収益単位によって成り立つSaaSビジネスにとって、なぜカスタマーサクセスという概念やそれに基づいた行動は重要なのでしょうか。
なぜSaaSビジネスにとってカスタマーサクセスは必要不可欠なのか?
そもそも、「カスタマーサクセス」という概念は、受け身のカスタマーサポートだけに留まらず、こちらから能動的に顧客の声を聞き、課題の解決までをサポートすることによって、顧客を成功に導こうという概念です。顧客が問題を抱える前に、あらかじめこちらからフォローをすることによってより良い顧客体験を提供しようとする活動とも言えます。
そして、このようなカスタマーサクセスの概念に基づく活動は、SaaSビジネスの収益単位であるMRR(New MRR・Expansion MRR ・Downgrade MRR・Canceled MRR)の値に好影響を与えます。
既存顧客を満足させ、感動を生み出すサポートを実践できれば、既存顧客が新規顧客を紹介してくれたり、プランをアップグレードしてくれることもあり、New MRRやExpansion MRRといった値が向上するでしょう。 また、他社サービスに乗り換えるリスクが軽減し、Downgrade MRRやCanceled MRRといった値を下げることにもつながるでしょう。
このようにSaaSビジネスの基本的な収益の成り立ちを見てみると、カスタマーサクセスがSaaSビジネスの成長に与える素晴らしい影響について理解することができるのではないでしょうか。
しかし、SaaSビジネスを展開する企業の中には、既存顧客を幸せにするためには時間もお金もほとんど使わず、多額の費用を広告に投下したり、執拗なアウトバウンド営業ばかりに投下して、New MRRを高めることばかりに躍起になっている企業もあります。
こうした活動に多額の費用をかけるくらいなら、既存顧客を幸せにするために同じ費用を使った方が良いと思うのは筆者だけでしょうか。 これまでサポートチャネルとして導入してこなかった電話を取り入れたり、顧客とのつながりを強くするためのイベントを定期的に開催するなどして、顧客に「この企業の製品を買ってよかった!」と思ってもらえるようなカスタマーサポートを実践した方が、SaaSビジネスは長期的に成長し続けられるはずです。
SaaSビジネスにとってカスタマーサクセスという概念やそれに基づいた活動は、成功を掴む上では欠かせない考え方であり、何よりも優先して行うべき取り組みだと言えるでしょう。
顧客の成功が企業の成功にもつながる
今回は、SaaSビジネスの収益構造について触れた上で、カスタマーサクセスの重要性に関する筆者の考察をご紹介しました。
筆者は、顧客を成功に導くことができてこそ、企業も成功を掴むことができると信じています。新規顧客獲得ばかりに躍起になって、既存顧客を置き去りにすることがあってはいけないのです。顧客と向き合い、日々製品を改善し、素晴らしい価値を顧客に届けていれば、きっと多額の費用をかけて広告を出さなくても、既存顧客が新規顧客を連れて来てくれることでしょう。
本記事をきっかけに、SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスの重要性が少しでも伝われば幸いです。