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藤本大輔のCS酒場 第1回 株式会社メルカリ CSグループ 小川直樹さん

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日本でただ一人の「カスタマーサポート エバンジェリスト」として活動している藤本大輔(現在はコードキャンプ株式会社でCSを担当)が、CS担当者と酒を酌み交わしながらCS業界のよもやま話に花を咲かす対談。記念すべき第1回目には、藤本が若手のホープと評価している、株式会社メルカリの小川直樹さんに来ていただきました。


なぜCS職を選んだのか、ザッポスをどう評価するか、メルカリの成長の秘密は何か、これからのCSはどうしていくべきか、1回目にして濃い内容だらけの対談となっています。

藤本が愛してやまない元ネタ:HANDS LAB|IT酒場放浪記


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小川 直樹
株式会社メルカリ / CSグループ 新卒からスターバックスコーヒージャパン株式会社で店舗マネジメントに従事した後、株式会社ロコンドに入社。同社でCSの責任者を務める。2015年8月に株式会社メルカリにジョイン。カスタマーサポート業務を行いながら、CSに特化した勉強会・コミュニティイベント「[CS JAM]*1」を立ち上げ、企画運営に携わる。
CSチームインタビュー | 株式会社メルカリ
成功事例からカスタマーサポートの未来を語る!|TOKYO CS JAM #6 - mercan(メルカン)

藤本:お疲れ様です。私、IT酒場放浪記が好きでいつかやってみたいと思っていたので、嬉しいです。

小川:あの企画、すごく楽しそうだし、良いですよね。

藤本:受けていただいてありがとうございます。業界を盛り上げるために、こういうゆるさで新しいことも取り入れていきますよ。

小川:マネージャーの山田(注:株式会社メルカリ CSグループマネージャー 山田 和弘氏)に相談したら「良いんじゃない?」って言ってました(笑)お酒飲みながらCSのことを語るなんて動きはなかったので、絶対面白くなるなと思ってます。

藤本:まずい話になったらカットするから、酔っ払ってください(笑)

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転職した自分を支えてくれたのは妻と子供達

藤本:私としては、小川さんがスターバックスのブラックエプロンに昇りつめるまでの話を聞きたいです。 その話だけで終わってもいいぐらい(笑)ブラックエプロンということは、社内での凄まじく厳しい試験を乗り越えたってことですよね。

小川:カッコいい言い方するとそうですね。1年に1回コーヒーに関する試験があって、それを突破しないと取れません。

藤本:大学出て新卒で入られたんですか。やっぱり、コーヒーが好きだったからかな。

小川:はい、大学でて新卒入社です。実は、その頃全然コーヒーが飲めなかったんです。 スターバックスに行っても甘いものしか飲まなくて。お店も、なんか敷居高くて入りづらいなぁと感じるぐらいでした。

ただ、会社のミッションに惹かれたんです。「人々の生活に潤いを与える」ってミッションなんですけど、それに共感して。コーヒー屋さんとか、飲食業じゃなくて「スターバックス」という企業に惹かれて入社したっていう流れですね。

ビジョナリーなミッションを掲げてる会社はたくさんあっても、それをちゃんとあの規模で体現している会社っていうのに初めて出会ったんです。

藤本:今のメルカリさんもかなりビジョナリーでやってますよね。それにしても、ブラックエプロンに認定されるには相当な努力しないと合格できなさそう。

小川:そうですね。メルカリは、そのビジョンもそうですが、最初から全世界を意識していてそこにも惹かれました。 コーヒーは、入社してから飲めるようになって、だんだん好きになり、知識やスキルを突き詰めるようになりました。

藤本:それは凄い。ちなみにそこからすぐメルカリに移ったんですか。ベンチャーに移る時って、いろいろ影響もあったのでは。

小川:最初は新卒でスターバックスに入って、次にロコンドという会社に移って、そこからメルカリです。飲食からITのECという全く違う業界に移ることになったので、正直妻には心配をかけました。

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藤本:前職はロコンドさんだったんですか。ロコンドさんも成長企業ですが、既に知名度抜群のところからベンチャーだと不安になる方もいますよね。

小川:妻はITに詳しいわけではないので、どうしても不安だったと思います。ロコンドに転職する時は2人目が生まれたタイミングでしたし。 ただ、ビジョンと将来性、自分のやりたいことが一致したのでそこは話をして分かってもらえて。

藤本:良い奥様ですね。

小川:収入面は頑張って元の水準まで持っていけたんですが、子供が2人いる中で、1年目はやっぱり苦労をかけたと思います。 ただ、ベンチャーはお金だけじゃない社会へのインパクト、一気に伸びていくという夢があります。そんな自分の考えを理解してもらえたのはありがたかったですね。

藤本:スターバックス、ロコンド、どっちもビジョンがしっかりしている会社じゃないですか。例え転職しても、小川さんの軸は変わらなかった。

小川:私は新卒で入った会社が、自分のキャリア感を形成していくんじゃないかと思っています。 実際、スターバックスのビジョンに惹かれて入って働いていくうちに、社会にどれだけ良い影響を与えられるか、人をどれだけ幸せにできるか、という自分の働く軸がより明確になっていったんです。

そういう思いがあって、スターバックスの時にザッポスを知って、好きになっていって、最終的にはスターバックスからロコンドに移ることになりました。

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「ザッポスの奇跡」を知って選んだCSへの道

藤本:おっと、ここでザッポスにいきますか。そこは後ほど、お聞きするとして、なぜ飲食からITのCSを選んだんですか。

小川:もともと、大学時代は教員になりたくて、教職一本でやってきたんです。それで教育実習にも行ったんですが、そこでなんとなく自分のやりたいことと違うなぁと思って、就活を始めました。

ただ、人に関わる仕事が良いなあという思いはずっとあって、20代後半でそういう「人軸」をぶらさずに且つスターバックスでの育成と接客の経験を生かして今後どうキャリアを作っていくかと考えた時に出した答えが、CSだったんです。

それでロコンドに縁あって入ることになって、そこからCSのキャリアがスタートしました。だから、まだ4年たってないんです、本当ペーペーなんですよ。藤本さんとか他の方に比べたらまだまだなんです。

藤本:いやいや、しっかりされてます。会社はビジョンで、職種としては人と関わる仕事という軸で選んだんですね。

藤本:話を戻すと、個人的には、ザッポスをどう評価するのかはCSの重要なテーマの一つかなと思っています。 ちなみに、私はザッポスへは若干否定的な立場ですが、小川さんはザッポスのどこらへんに惹かれたんでしょうか。

小川:ちょうどスターバックスの店舗のマネージメントをし始めて、売り上げや人件費、P/Lを任せられるみたいな立場になってきた時でした。 そこで色々な企業の経営を勉強していく中で、初めてお金だけじゃなくて人軸で語っているなと強く感じたのがザッポスだったんです。

ザッポスは何時間電話しても怒られないし、一人のお客様に自分の一日を全部費やしても、そのお客様を満足させたら会社から賞賛される文化じゃないですか。 そういうのがすごいなって。

藤本:「WOW!を届ける」というものですね。

小川:そうです、ビジョンの中に「WOW!を届ける」があるのにびっくりして、そういう考え方の会社があるんだなぁっていうのがザッポスの入り口でした。

興味をもって調べていくと、CEOのトニー・シェイのビジョンがあの規模の会社でしっかり効いている、アメリカっていうでかい社会の中で受け入れられている、凄い金額でバイアウトして賞賛されていることが分かってさらに気になっていって。その流れで、ザッポスの事業モデルを日本に持ってこようとしているロコンドを知ったんです。

藤本:確かにビジネスモデルは近いものがあるかもしれませんね。

小川:既に購入後何日までの返品だったら無料というサービスはあったんですけど、それを会社として大体的に打ち出して日本版ザッポスと謳っているのがロコンドだったんです。 そのザッポスに持っていた思いと、人軸のCSというのがあって、転職したという流れです。

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藤本:ロコンドさんは別として、私がザッポスを否定的にみるのは、返品が多く売上高と比較してあまり利益を出せていなかったからです。ザッポスはEC企業としてものを売るよりも、エンゲージメントが高い顧客リストを作るビジネスモデルだと思っていて。そこには、エンゲージメントが高いなら商品を気にいってリピーターになるはずだという前提があります。ただ狙い通りリピーターの数が増えても、返品率は平均で30%強*2もあって熱狂的なファンだと50%*3にもなる程の状態だったと言われています。もちろん返品自由が売りなので返品率は高くなりがちというのを差し引いてもあまりに高いんです。もしかしたらオペレーターは一時的なWOW!を与えてエンゲージメントを高めていただけで、その人が何が好きで何を求めているのか、という真の課題は解決できていなかったのではって疑問が湧くんですよ。

藤本:CSには、派手なWOW!を届けつつ顧客の深層心理やニーズをしっかり把握して自分たちの利益も確保するという、もう一段階上があると思います。ザッポスは、リストラがありつつも売上は伸ばして黒字転換はしていたし、結果としてAmazonに買収されて成功はしたけど、今の段階で認めちゃうとその先には一生たどり着けない気がしてどうしても否定的に見ちゃうんですよね。 ただ、採用やビジョンを浸透させる育成のところは素晴らしい。あそこの人事制度は物凄いです。

小川:上場して永続的企業にしますっていうのも素晴らしいし、バイアウトを目指していくっていうのも一つの成功ですが、利益の追求だけでなく社会的インパクトのあることや将来の成長に大きく投資していく方法もあるのかなと思います。そういう意味では、ザッポスは目先の返品率やキャッシュ面での最適化に走らず、コスト削減すれば得られるであろう利益にはあえて執着せず、ファンを最大化させてバイアウトしたっていう面で超成功事例ですよね。今って、自社単体で成功、不成功を見れないというか。

藤本:確かに。超成功事例なのは賛成しますし、バイアウトもIPOもどちらであっても起業家として成功だと思っています。ただ、”CSとして成功例”かと言われると抵抗感が出てきてしまって。あれは、CSというよりもマーケティング領域かなと、マーケティング費用の投資方法として、ああいうやり方を取ったのかなっていう風に考えてしまう。

小川:一つのPR手法でもありますからね。それにしても藤本さんのCS目線での洞察には感嘆です!

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メルカリはどこまでも「フラット」であれ

藤本:では、他社のお話が出たところで、メルカリさんの内部のことを聞かせてください。小川さんの今のポジションはどんな感じなんですか。

小川:メルカリのCSって、ポジションや階層みたいなものはないんですよ。メルカリには「Go Bold」「All for One」「Be Professional」の3つのバリューがあるんですが、経営やマネージャーとしては、バリューに基づいて行動するためにもあまりピラミッド型の組織を作りたくないという意向があります。

藤本:スクラム開発みたいな、少人数チームでミッションを与えられるって形式ですか。

小川:それに近いイメージです。CSでいうと外向けの役職が付いているのってマネージャーしかいないんですよ。あとはみんなメンバーになるんですね。業務の役割として、リーダーはいるんですけど、リーダーと名刺とかに書かれているわけでもないし、みんながCSグループ誰々なんです。

藤本:あえてそうしているということですか。

小川:あえてそうしてますね。全員がリーダーシップを発揮するためにフラットな組織でありたいというのは、うちの山田もずっと言ってます。

藤本:あの規模でフラットであり続けようというのはすごいですね。ちなみに、メルカリさんに入ってどれぐらいですか。 小川:1年と数ヶ月ですね。

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藤本:入った時と今で、印象や企業風土に何か変化はありますか。

小川:入る前と、後、今でもそんなにギャップがないです。本当に「Go Bold」で、やりたいことを事業インパクトに結び付けられるならなんでもやらせてもらえます。

経営陣のメッセージングが会社全体のムードを作ってるんですけど、メンバークラスの行動レベルだったり、そういうところも入社前後で変わってないですね。

藤本:良い話すぎるから全部カットして良いですか(笑)

小川:いやいや、使って下さい(笑)うちの会社って個人的に一言で言うと、ミッションとバリューと舵取りがブレないとこが凄いんです。

藤本:カットだな(笑)では、もう少し、CSの組織体系について詳しく教えていただけますか。

小川:CSでは、大きく分けて、RM(リスク&モデレーション)とCX(カスタマーエクスペリエンス)の2つのチームがあります。 その2つの中に、だいたい5人から10人ぐらいの「ユニット」があって、「ユニット」ごとにそれぞれの担当業務や施策を動かしてます。

一応、ユニットリーダーはいるんですけど、上下関係というよりかは、役割として設定してます。 みんながリーダーマインドは持つようにと言われていますし、リーダーだからこれやらなくちゃいけない、リーダーだから現場の仕事は入らないとかそういうこともなくて、やっている業務は一緒ですね。

藤本:ユニットはプロジェクト毎に集まるんですか。

小川:ユニット自体は固定で、クォーターごとに中の人員を変えていくというイメージです。

あとユニットを越えて施策を動かすこともあります。

CS JAMがまさにそうなんですけど、やりたいベースで手を上げた人がチームを組んでいるのでいろんなユニットから人が集まっています。 自分が声をあげれば、新しい施策とかプロジェクトのオーナーもできる文化があるので、そういうプロジェクトが結構ボコボコできてます。

藤本:上から与えられたからやるんじゃなくて、自分たちが声を上げてやっているんですね。

小川:そうなんです。みんなリーダーマインドでやるし、山田からもあまり提案にNOとは言われません。多分、山田の中では、施策に対して、確度高いなとかこのメンツなら危ないかもとかそういうのは全部わかってると思います。

でも、とりあえずやってみなよというスタンスなんです。失敗してもいいじゃんそれで死ぬわけじゃないし、という感じです。そこがCSメンバーのメルカリビジョンの理解、モチベーションや成長、そして施策の成功確度にもつながっていると思いますね。

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OKRの設定は「あえての汎用性」がポイント

藤本:山田さんの器がでかい(笑)業務がユニット単位なら、KPIもユニットごとの設定ですか。

小川:メルカリではOKRという評価システムを使ってます。

まず、クォーターごとにマネージャーとユニットリーダー達でCS全体が目指す汎用性が高いOKRを決めます。次にRMとCXの2つの組織で具体的な数値を決めます。

最後に個人のOKRに落とし込むんですが、そこではまた汎用性を高めたものにしています。”それぞれのチーム全体のOKRに寄与する「Go Bold」な施策を行う”とか、そういうものを設定しています。そこから、メンバーが自分で考え抜いて、個人の具体的な目標を自分で設定するという流れですね。

藤本:汎用性が高い設定なのは、基本、みんな頑張るよねという信頼からですか。

小川:大きく外れてたり自己目標が低すぎるようだったら修正されますが、突拍子のないOKRを設定するメンバーもいませんし、個人の裁量と自分の頑張り次第で伸ばせるような内容になってます。

自分が出した目標に対してどれだけ頑張れたかという、プロセスと成果、両方で評価されるので、会社からこれやれっていうトップダウン的なものはないです。

藤本:クォーターごとにマネージャーと話し合うんでしょうか。

小川:オフィシャルには4回、面談が入ります。目標設定、中間面談、振り返り面談、フィードバック面談、です。 他にも、毎週ぐらい感覚でユニット毎にリーダーとメンバーが1on1をしています。これは、意識的にやってますね。

藤本:お話を聞くと、ビジョンを大事にして、フラットで流動性のある組織を作りたいと言う意図がメルカリさんの組織作りにはあるのかな。

小川:そうですね、山田も新卒からCS畑なので、そう言う考えがあるかもしれないですね。会社の声としても、フラットな組織にしようと言い続けています。 それにしても、、、藤本さん、結構飲みますね(笑)

藤本:私、酒大好きなので。適当に話しているように見えて、聞きたいことのポイントは押さえているつもりですよ(笑)

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CSは「経営への貢献度」を追求すべき

藤本:ちなみに、コードキャンプっていうすごくビジョンを大事にしている会社もありますけど。私が働いている会社ですが。

小川:ははは(笑)僕はエンジニアじゃないんですけど、プログラミングの基礎は必要だなと思っています。 やっぱりプロダクト改善とか、経営にコミットしていく、CSは経営層からそうした貢献を求められる時代に入っていくと思うんですよ。

藤本:私もそう思います。これ言うと主にアウトソース界隈に敵を作ってしまうかもしれませんが、webサービスの改善速度を考えたら全社インハウスでCSやった方がいいんじゃないかと感じることがあって。メルカリさんはA/Bテストもたくさんやってるでしょ。

小川:今メルカリのUSでは大きめのところまで数えると50ぐらいA/Bテストを同時に走らせているって聞いて、自社のことだけどうぉーって驚きました。 それ日本でやってたら追いつけるのかな、と、ちょっと怖いですね。

藤本:ですよね。今まではカテゴリ登録数や取い合わせログ、アンケート等から改善案を考えてたけど、A/Bテストで数パターン作って良い方を採用するという考え方もあるわけです。

そんな中、どこにCSの価値を出していくのか考えて、高速でPDCA回していかないといけない。しかも今はセルフリーさんのようなクラウドでコールセンターを構築できるサービスもある。そんな状況では、外部に委託することによるコスト削減のメリットも相対的に訴求が弱くなってくるんじゃないかと、元アウトソースにいた人間としては思ってしまう。

小川:それでいうとCSは、CSじゃなくていいなと思っています。俗にいうCSには、お客様対応をする職種というイメージがありますよね。誤解を恐れずにいうと、お客様対応だけをしていてもCSって呼ばれない時代がすぐそこまできているかなって思うんです。 もちろん、ホスピタリティを持つとか丁寧な言葉遣いを使えるというのは前提条件です。

その上で、定量と定性の両方で課題を分析し機能改善していくスキル、さっき言ったような経営に対してVoC(Voice of Customerの略)を数値でちゃんと届けていくというのが必要になっていくと思います。 そういう時代のために、プログラミングを学びたいなと思っているし、プログラミングだけじゃなくてUIとか、デザイン思考とか、ITでプロダクトを持っている会社のCSとして取り入れていきたいです。

藤本:いやいや、これコードキャンプに登録するしかないですね(笑)というのは冗談で、やっぱりCS職同士だったら感覚で話が通じるんですよ。 ただ他部署や経営層と会話するには定量データが必要になってきます。もしエンジニアに頼まず自分でSQL組んで数字が取れれば、これまでよりも早くPDCAを回すことが出来るんですよね。

小川:CSは感情移入しやすいから、自分が対応した中で1日5人ぐらい同じような意見があったらほとんどのお客様がこう言っている、って思ってしまう面があります、 でも、もしかしたら1日何百何千の問い合わせの中の5件かもしれません。

そこをCSだけで数字が出せて分析して、客観的にも主観でも判断できるのは良いですよね。

CSの変化ということでいうと、昔だったら一人のお客様の対応がクロージングしたらそこで役割が終了してましたが今はソーシャルでの拡散も考えなくてはいけない時代です。一人だけじゃなくソーシャルで何人いるのかっていう視点も大事です。

藤本:CSがどんどんデザインだったり、マーケティング寄りになっているのかなという感じがしますね。CS発信の改善により、何人シェアされた、何人リテンションできた、みたいな。

小川:今まで感情と定性で訴えていて、いろんな部署とバチバチするみたいな構図もあったと思うんですけど、どれだけちゃんと定量的なデータを揃えて、他の部署や経営にわかりやすく生の声として提案できるかっていうのはCSに求められているところだと思います。

UIやUXだったりデザイナーの考え方もわかっていて、どのUIにしたらユーザービリティが上がるのかを定性と定量の良いバランスで語れる。それができたら、プロダクトに対してすごいメリットだと思うし、プロダクトが良くなればお客様の体験が良くなって、世の中が良くなります。

藤本:それ、私が言い始めた発言(笑)

小川:藤本さんも同じことを書かれてましたけど(笑)それが本質だと思うんですよね。 デザイン会社の方とも飲むんですけど、最近、ブログだったり記事でも「デザイン」について、狭義ではなく、経営にデザイン思考を取り入れるみたいな広義で語られることが多くなってきています。

今は、UIやUXの文脈でもユーザーの体験や事業をデザインしないといけない。

ものづくりにおいて顧客接点という考え方が進んで、デザイナーからCS職に変わる人が今後出てきても超面白いし、CS職からデザイナーだったりプロデューサーっていう流れのキャリアもこれからできてくるんだろうなと思いますね。

今うちのメンバーでもそういう文脈でデザインの発信をしようというのがあります。デザインがどれだけ経営にコミットできるかという、イベントとかをやったりしたり、そういう考え方を広げていきましょうという動きをしています。

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メルカリの「神対応」を生むオペレーション

藤本:それは自然な流れですね。例えば、そういう改善提案した時に、エンジニアとCSの意見がぶつかることはあるんですか。

小川:いやそういうのってびっくりするぐらいないんですよ。開発とCSのバトルはCSあるあるの一つですけど、面白いぐらいにそれがなくて。 やっぱり経営からのメッセージングや、CSもUXの考え方の一つっていうのが全エンジニア、全プロデューサーにも浸透しているからですね。

施策にもCSとしてのフィードバックを求められますし、情報が共有されず深刻な問題が後から判明するようなことがないんです。

藤本:CSの判断でいくと、メルカリさんは出品物にも色々、余裕というか遊びを持ってたりしますよね。

小川:はい、オーソドックスな対応をずっとやり続けたとしてもいわゆる「神対応」と言うものは生まれないなと思って、あえて幅をもたせています。個人裁量を持たすことによって、一人ひとりのお客さまに合ったよりきめ細かい対応が可能になり、ユーザー体験をさらに高めることが可能になります。このような対応を常に行うことによって、結果としてメルカリCSのブランディングにも繋がると思うんです。

藤本:さっき言ったようなインハウスがいいんじゃないってのは、そう言う柔軟性の面からもあって。今セルフリーさんのようなクラウド使ったシステムがどんどん出てきて、コールセンターの構築にかかる手間と費用が下がってきています。

そうなると、今後ベンダーにはコストメリットではなく、うちなら事業をスケールできますという目線で戦わないといけない。コンサルティング重視のパッケージは今もありますが、そこがより重視されてくる時代になる。

小川:ベンダーもそういうスキルだったり付加価値が重要ですよね。業界全体を盛り上げて、働く人たちを活性化させていきたいです。

藤本:ただベンダーへの権限委譲って難しいですよね。メルカリさんは全部インハウスで、雇用も正社員、契約社員、インターンの直雇用だけと伺っています。スタッフの方に対応に際してどれぐらい権限を渡してますか。例えば、顧客満足で有名な外資のホテルだと金額で設定してたりしますけど。

小川:個人裁量でいくらまでいけると言うものは決めてないんですが、マニュアルはあって、それに沿ってスタッフは対応しています。

後、今はかなり補償に力を入れていて、例えば、荷物が届かないというトラブルがあったとして、CtoCだと出品者と購入者の見解が違う場合があるんですね。単に配送事故などもありますし。そういう時にどれだけお客さまにストレスをかけないで問題を解決できるかという視点でサポートを行なっています。

藤本:補償判断は、メルカリさん早いですよね。前職の時から、感じていました。コミュニティを維持するための判断を迅速にできるっていうのは、何か基準があるんだと思うんですけど、そこを知りたいなぁ。

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小川:1年ぐらい前に、今の補償基準やユーザー体験についての本質的な議論がありました。それから、補償にさらに力を入れていきましょうとなったんです。CS発信で経営陣と色々議論をしたんですね。

経営陣からはすぐ補償を手厚くしていいよと、驚くぐらいのかなりの予算をつけてくれたんです。もちろん何も基準がない訳ではなくて、CSでデータを見てちゃんと設定していますけど。 補償を手厚くする前後では、リテンションレートであったりLTVにもかなり変化がありました。CS内での対応コストも大きく下がりましたね。

藤本:CSコストはかなり下がると思います。あと何回かやりとりしたら補償ができるのに出来ない、という状況はオペレーターのテンションが下がるし、多少は離職の原因にもなりえます。ただ、そういう判断には、事業の成長度とか、今は投資フェーズなのか回収フェーズなのかの事業判断も影響するかと思います。投資という話でいえば、小泉さん(注:株式会社メルカリ 取締役 小泉 文明氏)はCSとの絡みはあるんですか。

小川:CSって小泉付きなんですよ。だから最終的なジャッジは小泉がするんです。

小泉の決断が本当に早くて。もちろんマネージャーから色々な報告は上がっていると思うんですけど、CSから提案した時にOKが出るスピードが凄く早いです。 補償を手厚くした結果、ユーザーに対してのKPIもよくなったし、藤本さんが言うように現場のモチベーションが上がったりもしています。

CS部門でも裁量が持ててCSからの提案でそれだけの予算を動かせるんだという意識が強くなって、そこからは個人でスキルアップを目指したり、改善提案をするメンバーが増えてきました。

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藤本:アウトソース、最近流行りの言い方するとレガシーなコールセンターの体制だと、裁量を持つ体験ってかなり少ないように思います。コールセンターの経験者、ずっとオペレーターやっている人って、今日こんなことがあったんですけどってSVに言ってもなかなか改善されないことが多いんですよね。

それが続くと言っても変わらないよね、と言うマインドになってくると思います。多分、東京や仙台でメルカリが集めた時もそう言う人たちが来たんではないですか。でも意見を吸い上げていくと、ああこれまでとちがうんだ、自分であげるんだってことに気づいて、提案力が上がるんだと変わっていくはずです。

小川:確かに現場からの提案力は上がったし、リーダーへの登用率も上がりましたね。 もう一つの効果としては、補償の基準を明確化して体系したので、どう言った人がコミュニティへ悪い影響を及ぼしていくのかが見えるようになりました。

藤本:今まで単発でいい悪いを判断していたのが、回数などからそのコミュニティに対してこんなユーザーだけを残していきたい、ここまでの行動は厳しく対応すると言う、コミュニティマネジメントの品質が上がったということですね。

小川:まさにそうです。

藤本:どんなにLTVが高くても、コミュニティへの悪影響しかないと言う判断を現場レベルでできると言うのは大きいですよね。たぶん、判断がそんなにずれているオペレーターはいないと思うんですよ。感覚的におかしいなと思う人ばかりだと思うんですよ。そこの判断を明文化できるっていいですね。

小川:CtoCの難しさですよね。例えば、BtoC、BtoBは片方が正しいか正しくないか、ですよね。CtoCはどっちの言い分も正しいので、そこをどう幅をもたせるかでユーザー体験が違って来ます。

藤本:補償以外でのCSのルール設定について聞いて良いですか。シンプルそうですね。

小川:かなりシンプルですね。もちろんフローチャートはあります。基本的な対応だったりクリティカルな対応フローっていうのは、ちゃんとテンプレも全て用意されています。ただ、その割合は低いと思います。

藤本:そこの低さがその会社の自由度を決めるみたいなものがありますよね。

小川:自由にしても大丈夫な前提として、藤本さんが言っているようにビジョンが浸透しているかが重要です。

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「GO BOLD」で決めたイベント開催

藤本:そういえば、メルカリさんって勤務体制はどうなってます。

小川:メルカリCSは全員シフト制ですね。

藤本:仙台でまだ人取れそうかな。次検討してないの。

小川:そうですね、検討はしてますかねぇ。

藤本:関西方面とか行ったりしないのかな。北海道は行かないと思うけど。本州で距離が近くて、新幹線で行ける距離ですかねぇ。

小川:すごい探ってきますね(笑)まあ次のところは検討しているんですけど、人が集まらないというか仙台でまだまだ人を集めます。

仙台ってもう大手が結構出ていて、お互いに人を取り合ってるんじゃないかって一般的に思われていると思うんですけど、まだ潜在的な人材っていると思うんですよ。

(注:インタビュー後、2017年に福岡でコールセンターを開設すると発表し募集を開始)

藤本:それって既存のコールセンターからってことですよね。

小川:いやコールセンター未経験者への啓蒙もしていて、そのブランディングとしてCS JAMもあるんですよ。 イベントを毎月開いていることの大きなミッションの一つに、そもそもCS職に携わってない人に対して、クリエイティブな仕事なんだってわかってもらってCS職自体の人口を増やそうというのがあります。

藤本:地方で盛り上げるためにはweb以外の企業と組んでいくのも大事じゃないですか。2回前ぐらいの時に、健康食品を販売されている企業ともイベントされましたよね。そこが突破口だと思っていて、IT業界以外のところをいかに巻き込むかだと思うんですよ。

小川:すごい見てますね。

藤本:超見てます(笑)そういう企業ってコールセンターが超重要で力を入れてます。Webだけじゃなくて、一般企業も入れてCS盛り上げたいです。

小川:CS JAMがハブになっていけば良いかなと思っています。CS JAMをやり始めた当初は元々繋がりがあったweb業界の方や自社のCS組織が程度固まっている方に多く参加いただいてました。

もちろん今でもそうした企業の方はコアメンバーではあるんですけど、最近は新規参加の率の方が高いんですよ。CS立ち上げたばっかりの方に、セルフリーさんのコールセンターシステムのようなCSのノウハウを伝えられる、業界に関係のない広がりが持てるそんな場所にしていきたいです。

藤本:今CSに力を入れているところでメルカリさんをベンチマークにしている会社は結構あると思います。 個人的にはリックテレコムさんの「5年後のコンタクトセンター研究会」に山田さんが入っているというのが気になってて。

小川:リックテレコムさんにはお世話になっていますね。「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2016 in 東京」に、山田が登壇させていただきましたし、私も聴きにいきました。

藤本:あのイベントはCS業界だとほぼみんな行きますし、web以外の業界もたくさん集まってくる、そういう伝統的なところへもちゃんとバリューを出せているのがすごいなと思います。前やったCS FESもすごい人ばっかり集まったよね。

小川:感度高い人が集まりましたよね。これから、ITやCSの重鎮みたいな人たちとか、スタートアップのCOOとかCEOレベルも来るようになって、新しい知見だけじゃなくてビジネスの話でも盛り上がったらほんと良くなりますよね。  

藤本:私が思うに、CSって何でもできて最高だし最強なんですよ。この企画もそれをもっと知ってもらうためのものでもあります。CS JAMでメルカリさんが言っている「CSをプラチナ職種にする」という考えも凄く良い。CSを希望する新卒社員がどんどん出てきてくれれば、それはもうプレミア職だし。そこまで狙いたい。ちなみに、小川さんはCS JAMの発案者の一人ですよね。

小川:はい、そうです。もともとHR主導でのmeetupはありました。ただ、HR軸よりもCS主導でやったほうがメルカリだけの利益じゃなくてCS業界全体が盛り上がるかなという気持ちと、山田にもそういう考えがあって、メンバーからも採用目線だけじゃないところからイベントしたいねって声が出てきていました。

やれる環境があるのにやらないのって勿体無いし、別に失敗しても死ぬわけじゃないし、解雇されるわけでもない、そう考えるとやらない理由ってないんです。

今までやったことないことだから、最初はストレスだったり不安があったりはあるんですけど、それさえ背負っちゃえばもっともっとでっかいことできるなーって思って、やりましょうよって言ったんです。

藤本:まさしく「GO BOLD」ですね。これからも、お互いにCSを盛り上げていきましょう!ということで、既に予定時間を2時間もオーバーしたので帰りましょう(笑)今日はありがとうございました!

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【今回のお店】

今回は、六本木にある「みやび庭 一蔵」さんです。高級感のある落ち着いた個室でいただく鍋は、大山鷄の歯ごたえと染み出す旨味が最高で、どんどんお酒が進みます。飲みすぎの上、話しすぎで時間を大幅にオーバーしてごめんなさい!


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店長の篠塚さんと、スタッフさん。ごちそうさまでした!!


藤本 大輔 
1982年 福岡生まれ。テレマーケティング会社で電話営業を経験の後、コンタクトセンター運営会社に移り約10年間大手ISPのコールセンターマネジメントに従事。その後、大手ソーシャルゲーム会社のCSを経て、株式会社FablicのCSグループマネージャーとしてチャットサポートの導入やCSイベントの開催を主導。
現在は、コードキャンプ株式会社のCSチームを率いる。本業の他に日本で唯一の「カスタマーサポート エバンジェリスト」として、コンサルタントやCSイベントの企画などで活動中。昔”CSに狂っている男"と呼ばれたほど、CSの話をし始めると止まらない。


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